
前回の記事「なぜ日本企業の93%がDXで成果を出せないのか?確実な業務効率化5ステップ」では、DX成功の5つのステップをご紹介しました。
今回は、その第一歩である「Step 1: 現状把握」について、実際に使えるツールと具体的な方法を詳しく解説します。
なぜ現状把握が最も重要なのか?
「とりあえずシステムを導入しよう」 「あの会社が使っているツールを入れてみよう」
こんな思いつきでDXを始めた企業の多くが失敗しています。
理由は簡単です。現状を正確に把握していないからです。
現状把握なしにDXを始めるのは、地図を持たずに山登りをするようなもの。どこに問題があるのか、どこに向かうべきなのかがわからなければ、どんなに高価なツールを導入しても成果は出ません。
よくある失敗例
高額なシステムを導入したものの、現場からは「使いにくい」「前の方が良かった」という声ばかり。こういった失敗は決して珍しくありません。
なぜこうなるのか?
現状把握が不十分だからです。
- 担当者が本当に困っていることは何なのか?
- どの業務に最も時間がかかっているのか?
- 現場はどんな情報を必要としているのか?
これらを数字で把握せずに、「なんとなく管理が必要そう」という理由だけでシステムを選んでしまうケースが多いのです。
現状把握の4つのステップ
現状把握は、以下の4つのステップで進めます。
- ステップ1:業務の棚卸しをする
- ステップ2:時間とコストを測定する
- ステップ3:問題点とボトルネックを特定する
- ステップ4:データを分析して優先順位をつける
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ステップ1:業務の棚卸しをする
まずは「誰が」「何を」「どのように」やっているのかを洗い出します。
具体的なやり方
1. 部署ごとに業務をリストアップ
まずは紙でもExcelでも構いません。以下の項目を記入していきます。
- 業務名(例:見積書作成、請求書発行、在庫確認)
- 担当者
- 頻度(毎日、週1回、月1回など)
- 使っているツール(Excel、紙、メール、電話など)
- 関連部署(誰に確認が必要か、誰に渡すか)
2. 業務フローを図にする
文字だけでは見えにくい「流れ」を可視化します。
[見積依頼受付] → [担当者アサイン] → [原価確認] → [見積書作成] → [上長承認] → [顧客送付]
↓ ↓
(3分) (30分)
このように、各工程にかかる時間も記入すると、後の分析が楽になります。
おすすめツール:Notion
Notionがおすすめの理由
- 無料プランでも十分使える
- 表形式でもリスト形式でも整理できる
- 部署ごとにページを分けて管理しやすい
- フローチャートも作成可能
- チームで共有して情報を更新できる
使い方のコツ
- 「業務リスト」データベースを作成
- プロパティに「担当者」「頻度」「所要時間」「使用ツール」を追加
- ビュー機能で「頻度別」「担当者別」に切り替えて俯瞰
三重県内の企業様でも、Notionを使って業務の可視化を進めるケースが増えています。
おすすめツール:Trello
シンプルに業務フローを管理したい場合はTrelloも有効です。
- カード形式で視覚的にわかりやすい
- ドラッグ&ドロップで簡単に並び替え
- チェックリスト機能で詳細な手順も記録可能
使い方の例
- リスト名:「受注前」「受注後」「制作中」「納品」
- カード:各業務を配置
- チェックリスト:各業務の詳細手順を記載
ステップ2:時間とコストを測定する
業務をリストアップしたら、次は「数字」で現状を把握します。
なぜ数字が必要なのか?
「この作業、時間がかかるんですよね」
このような感覚的な訴えでは、経営陣は動きません。しかし、
「この作業、月に100時間かかっていて、人件費で25万円のコストになっています」
こう数字で示せば、話は変わります。
時間測定の具体的な方法
方法1:Togglで自動計測
Togglは作業時間を簡単に記録できる無料ツールです。
使い方
- タスク名を入力(例:「見積書作成」)
- スタートボタンを押す
- 作業終了時にストップ
- 自動で時間が記録される
- 週次・月次レポートで集計
メリット
- ボタン1つで記録開始
- プロジェクトごとに分類可能
- レポート機能で分析も簡単
- スマホアプリもあり外出先でも使える
方法2:Googleスプレッドシートで手動記録
ツール導入が難しい場合は、スプレッドシートでも十分です。
記録項目
- 日付
- 業務名
- 開始時刻
- 終了時刻
- 所要時間(自動計算)
- 備考(中断理由、問題点など)
計算式の例
所要時間 = TEXT(終了時刻 - 開始時刻, "h:mm")
最低でも2週間〜1ヶ月は記録を続けましょう。そうすることで、平均的な業務時間が見えてきます。
コスト計算の方法
時間がわかれば、コスト計算は簡単です。
基本の計算式
業務コスト = 作業時間 × 時給換算した人件費
具体例:見積書作成業務
- 1件あたり30分
- 月間100件
- 担当者の人件費:年収500万円(時給換算 約3,000円)
月間コスト = 30分 × 100件 × 3,000円 = 150,000円
年間コスト = 150,000円 × 12ヶ月 = 1,800,000円
年間180万円ものコストがかかっていることがわかります。
隠れたコストも忘れずに
作業時間だけでなく、以下のような「見えないコスト」も計算しましょう。
1. 待ち時間のコスト
承認待ち、確認待ち、返信待ち…これらの時間も機会損失です。
例:承認待ち平均1日 → 1案件あたり24,000円の機会損失(日給換算)
2. ミスによるコスト
- やり直し作業の時間
- 顧客対応の時間
- 信用低下による売上減少
例:月5件のミス × やり直し1時間 × 時給3,000円 = 月15,000円
3. ツール利用料
現在使っているツールの月額料金も洗い出しましょう。
ステップ3:問題点とボトルネックを特定する
数字が集まったら、次は「どこに問題があるか」を見つけます。
現場ヒアリングの実施
数字だけではわからない「現場の困りごと」を聞き出します。
効果的なヒアリング方法
質問例
- 「この業務で一番時間がかかるのはどこですか?」
- 「どんなときにミスが起きやすいですか?」
- 「もっと効率化できると思う作業はありますか?」
- 「他部署とのやり取りで困っていることは?」
- 「理想的には、この業務をどう改善したいですか?」
ヒアリングのコツ
- 1対1で話す(周りに人がいると本音が出にくい)
- 批判ではなく「改善のため」と伝える
- 具体的なエピソードを聞く
- 否定せずに最後まで聞く
三重県内の企業様での現場ヒアリングでは、「実は社内システムが使いにくくて、Excelで別管理している」といった事実が発覚することもあります。
ボトルネックの見つけ方
業務フローの中で「詰まっている場所」を特定します。
チェックポイント
- ✓ 特定の人に業務が集中していないか?
- ✓ 承認や確認で長時間待たされていないか?
- ✓ 手作業で転記している箇所はないか?
- ✓ 同じ情報を複数回入力していないか?
- ✓ 紙ベースでやり取りしている業務はないか?
よくあるボトルネックの例
承認待ち
- 原因:承認者が多忙・不在
- 影響:業務が進まない
手作業転記
- 原因:システム間連携なし
- 影響:時間とミスが増える
属人化
- 原因:特定の人しかできない
- 影響:その人が休むと止まる
情報共有不足
- 原因:連絡手段が統一されていない
- 影響:確認作業が増える
ステップ4:データを分析して優先順位をつける
ここまで集めたデータを、AIの力も借りて分析します。
NotebookLMを活用した分析
NotebookLMとは?
Googleが提供する無料のAI分析ツールです。収集した資料をアップロードすると、AIが内容を理解して質問に答えてくれます。
DX現状把握での活用方法
1. 収集したデータをアップロード
- 業務リストのスプレッドシート
- 時間計測データ
- ヒアリング結果のメモ
- 現在の業務フロー図
これらをPDFやテキスト形式でNotebookLMにアップロードします。
2. AIに質問する
アップロード後、以下のような質問をしてみましょう。
「このデータから、最もコストがかかっている業務トップ3を教えてください」
「ボトルネックになっている工程はどこですか?」
「優先的に改善すべき業務を、理由とともに提案してください」
「他部署との連携で問題が起きている箇所を指摘してください」
3. レポートを自動生成
NotebookLMは、アップロードした資料をもとに「分析レポート」や「改善提案」を作成してくれます。
これにより、経営陣や関係者への報告資料作成の時間も大幅に削減できます。
実際の活用イメージ
業務データをNotebookLMで分析することで:
- 受発注業務にどれだけのコストがかかっているか明確に
- 電話とメールとFAXが混在していることが非効率の原因と特定
- 「受発注システムの導入」が最優先課題と判断できる
このような分析結果をもとに、最適なシステムを選定し、業務改善を進めることが可能になります。
Excelでの基本分析
NotebookLMを使わなくても、Excelの基本機能で十分分析できます。
おすすめの分析方法
1. ピボットテーブルで集計
業務別、担当者別、日付別に時間とコストを集計して、全体像を把握します。
2. グラフで可視化
- 円グラフ:業務別の時間配分
- 棒グラフ:業務別のコスト比較
- 折れ線グラフ:月ごとの変化
視覚化することで、問題が一目瞭然になります。
3. パレート分析(80:20の法則)
「全体の80%のコストは、20%の業務が占めている」
この法則に基づいて、コストの大きい順に業務を並べ、上位20%に該当する業務を特定します。
ここを改善すれば、最大の効果が得られます。
現状把握で使えるテンプレート
実際に使える3つのテンプレートをご紹介します。
テンプレート1:業務棚卸しシート
記録する項目
- 業務名
- 担当者
- 頻度
- 所要時間
- 使用ツール
- 問題点
- 改善アイデア
記入例:見積書作成
- 業務名:見積書作成
- 担当者:営業A
- 頻度:毎日5件
- 所要時間:30分/件
- 使用ツール:Excel
- 問題点:過去データ探しに時間
- 改善アイデア:テンプレート化
記入例:請求書発行
- 業務名:請求書発行
- 担当者:経理B
- 頻度:月末100件
- 所要時間:5分/件
- 使用ツール:会計ソフト
- 問題点:手入力ミス
- 改善アイデア:システム連携
テンプレート2:時間・コスト計算シート
記録する項目
- 業務名
- 月間発生件数
- 1件あたり時間
- 月間総時間
- 時給換算
- 月間コスト
- 年間コスト
計算例:見積書作成
- 業務名:見積書作成
- 月間発生件数:100件
- 1件あたり時間:30分
- 月間総時間:50時間
- 時給換算:3,000円
- 月間コスト:150,000円
- 年間コスト:1,800,000円
テンプレート3:改善優先度マトリクス
記録する項目
- 業務名
- 年間コスト
- 改善効果(予想)
- 導入難易度
- 優先度
評価例:見積書作成
- 業務名:見積書作成
- 年間コスト:180万円
- 改善効果(予想):50%削減
- 導入難易度:低(テンプレート化)
- 優先度:★★★ 最優先
評価例:在庫管理
- 業務名:在庫管理
- 年間コスト:240万円
- 改善効果(予想):30%削減
- 導入難易度:高(システム導入)
- 優先度:★★ 計画的
優先順位の付け方
効果が大きい × 実現が簡単 = 今すぐやる
- 例:契約書の電子化
効果が大きい × 実現が難しい = 計画的に進める
- 例:顧客データの統合
効果が小さい × 実現が簡単 = 余裕があればやる
- 例:社内チャットツール導入の検討
効果が小さい × 実現が難しい = やらない
- 例:使用頻度の低い業務のシステム化
現状把握のよくある失敗と対策
失敗1:完璧を目指しすぎる
失敗例 「すべての業務を正確に測定してから…」と考えて、いつまでも次に進めない。
対策 まずは主要業務だけでOK。全体の70%を把握できれば十分です。
失敗2:現場の協力が得られない
失敗例 「時間を測る」と伝えたら「監視されている」と反発された。
対策
- 「評価のため」ではなく「改善のため」と明確に伝える
- 現場の負担にならない簡単な記録方法を選ぶ
- 改善されたら現場が一番楽になることを説明
失敗3:数字だけで判断する
失敗例 数字上は問題なさそうでも、現場は困っている。
対策 数字とヒアリングの両方を組み合わせる。定量データと定性データの両面から判断しましょう。
三重県内の企業様へ:現状把握から始めるDX支援
私たちは三重県津市を拠点に、東海地方の企業様のDX推進をサポートしています。
実際の支援内容
ステップ1:現状診断(無料相談)
- 業務の可視化支援
- 現場ヒアリングの実施
- データ収集方法のアドバイス
ステップ2:分析とレポート作成
- 収集データの分析
- 改善優先順位の提案
- 概算コスト・効果の試算
ステップ3:改善策の提案
- 最適なツール・システムの選定
- 導入計画の策定
- ホームページやWebシステムでの業務効率化提案
「どこから手をつければいいかわからない」 「現状把握のやり方がわからない」 「分析結果をどう読み解けばいいか不安」
そんなお悩みがあれば、まずはお気軽にご相談ください。
まとめ:現状把握は「地図」を手に入れること
DXの第一歩である「現状把握」について、具体的な方法とツールをご紹介しました。
現状把握の4ステップ
- 業務の棚卸しをする → Notion、Trelloで可視化
- 時間とコストを測定する → Toggl、スプレッドシートで記録
- 問題点とボトルネックを特定する → 現場ヒアリングとデータ分析
- データを分析して優先順位をつける → NotebookLM、Excelで分析
重要なポイント
- 完璧を目指さず、まず70%の把握から始める
- 数字とヒアリングの両面から分析する
- NotebookLMなどAIツールを活用して効率化
- 現場の協力を得るために「改善目的」を明確に伝える
現状把握ができれば、次のステップ「優先順位の決定」がスムーズに進みます。
次回予告
次回は「【Step 2詳細版】優先順位決定の実践的フレームワーク」をお届けします。
- 改善効果を正確に見積もる方法
- ROI(投資対効果)の計算方法
- 経営陣を説得できる提案書の作り方
をご紹介予定です。
まずは今日から、主要業務の時間測定から始めてみませんか?
関連サービス
ホームページ制作・Webシステム開発で業務効率化
三重県内の企業様向けに、業務効率化につながるWebソリューションを提供しています。
- 受発注システムのWeb化
- 顧客管理システムの構築
- 業務報告の自動化
- モバイル対応の業務アプリ開発
現状把握の結果をもとに、最適なWebシステムをご提案いたします。
まずは無料相談から
お困りのことがあれば、お気軽にお問い合わせください。

西村 力也
代表取締役
2002年からWeb制作・システム開発に従事。React、Next.js、TypeScriptを中心としたモダンなフロントエンド開発の専門家。AI検索最適化(AIO)の先駆者として、ChatGPT、Perplexity等のAI検索エンジン対応を推進。三重県津市を拠点に、東海地方の企業様のデジタル変革を支援しています。
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