
「このサイト、遅いな…」
そう感じた瞬間、あなたはブラウザの「戻る」ボタンを押していませんか?
実は、現代のユーザーは驚くほど我慢強くありません。Googleの調査によれば、ページの読み込みに3秒以上かかると、53%のユーザーが離脱するというデータがあります。たった3秒です。
今回は、「写真が命」の不動産サイトで起きた速度問題を、どのように解決したのか。その舞台裏を、専門用語を極力使わずにお伝えします。
事件は不動産サイトで起きた
クライアントの悩み
都心部で賃貸・売買物件を扱う不動産会社A社。Webサイトのリニューアルから1年、こんな悩みを抱えていました。
「物件写真をたくさん載せたら、サイトがめちゃくちゃ重くなってしまって…。せっかくいい物件があるのに、お客様に見てもらう前に離脱されているみたいなんです」
実際に計測してみると、衝撃的な数字が出ました。
改善前の状況:
- トップページの読み込み時間: 8.5秒
- 物件詳細ページ: 12.3秒
- モバイルでの離脱率: 78%
- 1ページ目から2ページ目への遷移率: わずか22%
12秒…。現代のWeb体験としては、致命的な遅さです。
犯人を特定せよ!遅さの正体とは
サイトが遅い理由は、大きく分けて3つありました。
犯人その1: 巨大な写真たち
不動産サイトの命である物件写真。しかし、その写真が1枚あたり5〜8MBという重さでした。プロのカメラマンが撮影した高解像度の写真をそのままアップロードしていたのです。
例えるなら、軽自動車で運べる荷物を、10トントラックで運んでいるようなもの。Webサイトで表示するには、明らかにオーバースペックでした。
犯人その2: 一度に全部読み込む設計
トップページには新着物件が30件表示されていました。そして、そのすべての写真をページを開いた瞬間に一斉に読み込んでいたのです。
画面に見えていない下の方の写真まで、最初から全部読み込む必要はありません。これは、レストランで注文していないのに、全メニューが一度にテーブルに運ばれてくるようなものです。
犯人その3: 遠くのサーバー
サイトのデータは、国内の1箇所のサーバーにしか置かれていませんでした。北海道のユーザーも、沖縄のユーザーも、すべて同じサーバーからデータを取得していたのです。
物理的な距離が遠ければ遠いほど、データが届くまでに時間がかかります。東京から沖縄に荷物を送るのと、近所のコンビニに買い物に行くのでは、時間が全く違いますよね。
救出作戦、始動!
作戦1: 写真のダイエット大作戦
まず取り組んだのは、写真の最適化です。
実施した施策:
- 次世代フォーマット「WebP」への変換(画質を保ちながら60〜80%軽量化)
- 表示サイズに合わせた画像を複数用意(スマホ用、タブレット用、PC用)
- 不要なメタデータの削除
結果、1枚8MBの写真が、わずか200KBに。40分の1です。
実際の見た目は、人間の目にはほとんど区別がつきません。しかし、読み込み速度は劇的に改善しました。
作戦2: 「後から読み込む」技術の導入
次に実装したのが「レイジーロード(遅延読み込み)」という技術です。
仕組みは簡単:
- 最初は画面に見えている部分の写真だけ読み込む
- ユーザーがスクロールして下に進む
- 見えてきた写真を、その時に読み込む
これにより、初回の読み込みデータ量が約75%削減されました。
ユーザーからすれば、スクロールすると同時に写真が現れるので、待たされている感覚もありません。むしろ、スムーズに感じるほどです。
作戦3: 全国に「配達拠点」を設置
最後に導入したのがCDN(Content Delivery Network)というサービスです。
これは、サイトのデータを全国(さらには世界中)の複数のサーバーにコピーして配置しておく技術。ユーザーは、自分に一番近いサーバーからデータを受け取れます。
効果:
- 東京のユーザー → 東京のサーバーから配信
- 大阪のユーザー → 大阪のサーバーから配信
- 札幌のユーザー → 札幌のサーバーから配信
物理的な距離が短くなることで、データ転送時間が大幅に短縮されました。
劇的ビフォーアフター
改善施策を実施した結果がこちらです。
読み込み時間の変化
| ページ | 改善前 | 改善後 | 改善率 |
|---|---|---|---|
| トップページ | 8.5秒 | 2.1秒 | 75%短縮 |
| 物件詳細ページ | 12.3秒 | 3.4秒 | 72%短縮 |
| 検索結果ページ | 9.8秒 | 2.6秒 | 73%短縮 |
ビジネス指標の変化
数字の改善は、ビジネスにも直結しました。
- 離脱率: 78% → 42%(46%改善)
- ページ遷移率: 22% → 58%(2.6倍向上)
- 問い合わせ数: 月120件 → 月210件(75%増加)
- モバイルからの問い合わせ: 月30件 → 月95件(3.2倍増加)
特に注目すべきは、モバイルからの問い合わせの急増です。スマホユーザーは回線速度が不安定な場合も多く、サイトの速度改善の恩恵を最も受けたのです。
速度改善がもたらした意外な効果
実は、サイトの高速化は「ユーザー体験の向上」だけではありませんでした。
SEO順位の大幅上昇
Googleは2021年から「Core Web Vitals」という指標を、検索順位の決定要因に加えています。簡単に言えば、速くて快適なサイトを上位に表示するということです。
改善後、主要キーワードでの検索順位が軒並み上昇しました。
- 「渋谷 賃貸 マンション」: 17位 → 6位
- 「新宿 不動産 売買」: 23位 → 9位
- 「東京 物件 検索」: 31位 → 12位
広告費をかけずに、検索からの自然流入が月間3,500人から7,200人へと倍増したのです。
スタッフの業務効率も向上
意外な副産物もありました。不動産会社のスタッフ自身が、物件登録や情報更新の際に管理画面を使います。
その管理画面も同じサーバーで動いているため、高速化の恩恵を受けました。「物件情報の更新作業が快適になった」と、社内からも好評だったそうです。
あなたのサイトは大丈夫?簡単チェック方法
自分のサイトが速いのか遅いのか、気になりませんか?
実は、Googleが無料で提供している「PageSpeed Insights」というツールを使えば、誰でも簡単にチェックできます。
チェック方法:
- Googleで「PageSpeed Insights」と検索
- 自分のサイトのURLを入力
- 「分析」ボタンをクリック
すると、0〜100点のスコアと、改善すべきポイントが表示されます。
目安:
- 90点以上: 優秀!
- 50〜89点: 改善の余地あり
- 49点以下: 要改善
ちなみに、今回の不動産サイトは改善前が28点、改善後が92点でした。
速度改善は「おもてなし」の心
Webサイトの速度改善は、技術的な話に聞こえるかもしれません。しかし本質は、**訪れてくれたユーザーへの「おもてなし」**です。
お店で例えるなら:
- 遅いサイト = 注文してから料理が出るまで30分かかるレストラン
- 速いサイト = 注文してすぐに料理が提供されるレストラン
どちらにまた行きたくなるかは、明白ですよね。
今回の不動産サイトの事例では、写真の最適化、遅延読み込み、CDNの活用という3つの施策で、劇的な改善を実現しました。しかし、これらは決して特別な技術ではありません。適切な知識と経験があれば、どんなサイトでも実現可能です。
まとめ: 速度は体験、体験は売上
「たかが数秒」と思うかもしれません。しかし、その数秒が:
- ユーザーの離脱を防ぎ
- 問い合わせを増やし
- 検索順位を上げ
- 最終的に売上を向上させる
これが、Webサイト高速化の真の価値です。
もし、あなたの会社のWebサイトで「なんだか重いな」と感じたら、それは改善のチャンスかもしれません。ユーザーは正直です。快適な体験を提供できるサイトが、最終的に選ばれるのです。
3秒で離脱される時代だからこそ、1秒を大切にする。それが、これからのWeb開発に求められる姿勢なのです。

西村 力也
代表取締役
2002年からWeb制作・システム開発に従事。React、Next.js、TypeScriptを中心としたモダンなフロントエンド開発の専門家。AI検索最適化(AIO)の先駆者として、ChatGPT、Perplexity等のAI検索エンジン対応を推進。三重県津市を拠点に、東海地方の企業様のデジタル変革を支援しています。
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