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ITトレンド

3秒で離脱される時代のWebサイト救出作戦 〜不動産サイトを2倍速くした改善事例〜

2025/10/24
3秒で離脱される時代のWebサイト救出作戦 〜不動産サイトを2倍速くした改善事例〜

「このサイト、遅いな…」

そう感じた瞬間、あなたはブラウザの「戻る」ボタンを押していませんか?

実は、現代のユーザーは驚くほど我慢強くありません。Googleの調査によれば、ページの読み込みに3秒以上かかると、53%のユーザーが離脱するというデータがあります。たった3秒です。

今回は、「写真が命」の不動産サイトで起きた速度問題を、どのように解決したのか。その舞台裏を、専門用語を極力使わずにお伝えします。

事件は不動産サイトで起きた

クライアントの悩み

都心部で賃貸・売買物件を扱う不動産会社A社。Webサイトのリニューアルから1年、こんな悩みを抱えていました。

「物件写真をたくさん載せたら、サイトがめちゃくちゃ重くなってしまって…。せっかくいい物件があるのに、お客様に見てもらう前に離脱されているみたいなんです」

実際に計測してみると、衝撃的な数字が出ました。

改善前の状況:

  • トップページの読み込み時間: 8.5秒
  • 物件詳細ページ: 12.3秒
  • モバイルでの離脱率: 78%
  • 1ページ目から2ページ目への遷移率: わずか22%

12秒…。現代のWeb体験としては、致命的な遅さです。

犯人を特定せよ!遅さの正体とは

サイトが遅い理由は、大きく分けて3つありました。

犯人その1: 巨大な写真たち

不動産サイトの命である物件写真。しかし、その写真が1枚あたり5〜8MBという重さでした。プロのカメラマンが撮影した高解像度の写真をそのままアップロードしていたのです。

例えるなら、軽自動車で運べる荷物を、10トントラックで運んでいるようなもの。Webサイトで表示するには、明らかにオーバースペックでした。

犯人その2: 一度に全部読み込む設計

トップページには新着物件が30件表示されていました。そして、そのすべての写真をページを開いた瞬間に一斉に読み込んでいたのです。

画面に見えていない下の方の写真まで、最初から全部読み込む必要はありません。これは、レストランで注文していないのに、全メニューが一度にテーブルに運ばれてくるようなものです。

犯人その3: 遠くのサーバー

サイトのデータは、国内の1箇所のサーバーにしか置かれていませんでした。北海道のユーザーも、沖縄のユーザーも、すべて同じサーバーからデータを取得していたのです。

物理的な距離が遠ければ遠いほど、データが届くまでに時間がかかります。東京から沖縄に荷物を送るのと、近所のコンビニに買い物に行くのでは、時間が全く違いますよね。

救出作戦、始動!

作戦1: 写真のダイエット大作戦

まず取り組んだのは、写真の最適化です。

実施した施策:

  • 次世代フォーマット「WebP」への変換(画質を保ちながら60〜80%軽量化)
  • 表示サイズに合わせた画像を複数用意(スマホ用、タブレット用、PC用)
  • 不要なメタデータの削除

結果、1枚8MBの写真が、わずか200KBに。40分の1です。

実際の見た目は、人間の目にはほとんど区別がつきません。しかし、読み込み速度は劇的に改善しました。

作戦2: 「後から読み込む」技術の導入

次に実装したのが「レイジーロード(遅延読み込み)」という技術です。

仕組みは簡単:

  1. 最初は画面に見えている部分の写真だけ読み込む
  2. ユーザーがスクロールして下に進む
  3. 見えてきた写真を、その時に読み込む

これにより、初回の読み込みデータ量が約75%削減されました。

ユーザーからすれば、スクロールすると同時に写真が現れるので、待たされている感覚もありません。むしろ、スムーズに感じるほどです。

作戦3: 全国に「配達拠点」を設置

最後に導入したのがCDN(Content Delivery Network)というサービスです。

これは、サイトのデータを全国(さらには世界中)の複数のサーバーにコピーして配置しておく技術。ユーザーは、自分に一番近いサーバーからデータを受け取れます。

効果:

  • 東京のユーザー → 東京のサーバーから配信
  • 大阪のユーザー → 大阪のサーバーから配信
  • 札幌のユーザー → 札幌のサーバーから配信

物理的な距離が短くなることで、データ転送時間が大幅に短縮されました。

劇的ビフォーアフター

改善施策を実施した結果がこちらです。

読み込み時間の変化

ページ改善前改善後改善率
トップページ8.5秒2.1秒75%短縮
物件詳細ページ12.3秒3.4秒72%短縮
検索結果ページ9.8秒2.6秒73%短縮

ビジネス指標の変化

数字の改善は、ビジネスにも直結しました。

  • 離脱率: 78% → 42%(46%改善)
  • ページ遷移率: 22% → 58%(2.6倍向上)
  • 問い合わせ数: 月120件 → 月210件(75%増加)
  • モバイルからの問い合わせ: 月30件 → 月95件(3.2倍増加)

特に注目すべきは、モバイルからの問い合わせの急増です。スマホユーザーは回線速度が不安定な場合も多く、サイトの速度改善の恩恵を最も受けたのです。

速度改善がもたらした意外な効果

実は、サイトの高速化は「ユーザー体験の向上」だけではありませんでした。

SEO順位の大幅上昇

Googleは2021年から「Core Web Vitals」という指標を、検索順位の決定要因に加えています。簡単に言えば、速くて快適なサイトを上位に表示するということです。

改善後、主要キーワードでの検索順位が軒並み上昇しました。

  • 「渋谷 賃貸 マンション」: 17位 → 6位
  • 「新宿 不動産 売買」: 23位 → 9位
  • 「東京 物件 検索」: 31位 → 12位

広告費をかけずに、検索からの自然流入が月間3,500人から7,200人へと倍増したのです。

スタッフの業務効率も向上

意外な副産物もありました。不動産会社のスタッフ自身が、物件登録や情報更新の際に管理画面を使います。

その管理画面も同じサーバーで動いているため、高速化の恩恵を受けました。「物件情報の更新作業が快適になった」と、社内からも好評だったそうです。

あなたのサイトは大丈夫?簡単チェック方法

自分のサイトが速いのか遅いのか、気になりませんか?

実は、Googleが無料で提供している「PageSpeed Insights」というツールを使えば、誰でも簡単にチェックできます。

チェック方法:

  1. Googleで「PageSpeed Insights」と検索
  2. 自分のサイトのURLを入力
  3. 「分析」ボタンをクリック

すると、0〜100点のスコアと、改善すべきポイントが表示されます。

目安:

  • 90点以上: 優秀!
  • 50〜89点: 改善の余地あり
  • 49点以下: 要改善

ちなみに、今回の不動産サイトは改善前が28点、改善後が92点でした。

速度改善は「おもてなし」の心

Webサイトの速度改善は、技術的な話に聞こえるかもしれません。しかし本質は、**訪れてくれたユーザーへの「おもてなし」**です。

お店で例えるなら:

  • 遅いサイト = 注文してから料理が出るまで30分かかるレストラン
  • 速いサイト = 注文してすぐに料理が提供されるレストラン

どちらにまた行きたくなるかは、明白ですよね。

今回の不動産サイトの事例では、写真の最適化、遅延読み込み、CDNの活用という3つの施策で、劇的な改善を実現しました。しかし、これらは決して特別な技術ではありません。適切な知識と経験があれば、どんなサイトでも実現可能です。

まとめ: 速度は体験、体験は売上

「たかが数秒」と思うかもしれません。しかし、その数秒が:

  • ユーザーの離脱を防ぎ
  • 問い合わせを増やし
  • 検索順位を上げ
  • 最終的に売上を向上させる

これが、Webサイト高速化の真の価値です。

もし、あなたの会社のWebサイトで「なんだか重いな」と感じたら、それは改善のチャンスかもしれません。ユーザーは正直です。快適な体験を提供できるサイトが、最終的に選ばれるのです。

3秒で離脱される時代だからこそ、1秒を大切にする。それが、これからのWeb開発に求められる姿勢なのです。

西村 力也

西村 力也

代表取締役

2002年からWeb制作・システム開発に従事。React、Next.js、TypeScriptを中心としたモダンなフロントエンド開発の専門家。AI検索最適化(AIO)の先駆者として、ChatGPT、Perplexity等のAI検索エンジン対応を推進。三重県津市を拠点に、東海地方の企業様のデジタル変革を支援しています。

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